性的虐待からの回復

 性的虐待    
 
            助けを得る

 もしあなたが,子供のころに性的虐待の犠牲になった方であるなら,
記憶がよみがえる時のあらしを独りで乗り切ろうとしないでください。
自分の気持ちをすっかり話すと楽になります

 ひどく苦しんでいる人たちは,資格のある医師やカウンセラー,さらには
精神衛生の専門家に助けを求めることにするかもしれません。いずれにしても,
信頼できる友人,配偶者,家族,感情移入をしながら敬意を込めて話に
耳を傾けてくれる人々も心強い味方になります。?
「私にとって一番助けになったのは親友のジュリーです。彼女は,私の過去のことを
何度も何度も聞いてくれました。話をしている時の私の気持ちをその
まま受け止めてくれました。共感しながら耳を傾け,反応してくれたのです」と,
ジャネットは言います。

 信頼することには危険が伴います。また,自分はだれかの助けを受けるには
値しないと感じることもあるでしょう。あるいは恥ずかしさが先に立って,
虐待についてはとても話せないかもしれません。しかし,「苦難のときのために生まれた」
のが真の友です。機会さえあれば,きっと力になってくれるに違いありません

 しかし,打ち明ける相手はよく選ぶようにします。そして,少しずつ悩みを話します。
もしその友人が思いやりと分別のある人だということが分かれば,その時もっと話して
みるようにします。

体の健康に気を配るのも助けになります。休息を十分に取り,適度に運動をします。
健康的な食事をきちんと取りましょう。できれば,生活を簡素にします。
泣きたい時には思い切り泣いてください。心の痛みはいつまでも続くように
思えるかもしれませんが,しばらくするとおさまります。無力な子供の時に
虐待の中を生き抜いたこと,そうです,それを乗り越えたことを忘れないでください。
今は大人ですから,子供の時にはなかった知恵と力があります。ですから,
不快な記憶に立ち向かい,その影響を断ち切りましょう。

          罪悪感と恥ずかしさを捨て去る

 自分を責めるのをやめることも,立ち直るための大切な課題です。「今でさえ,
自分には罪がなかったと考えるのは難しいのです。どうしてやめさせなかったのだろう,
と考えてしまうのです」と,被害者のレバは言います。

 しかし,加害者は強制という最も卑劣な手段を使うということを忘れないでください
。権威(『わたしは父親だぞ』)
,脅し(『だれかに言ったら殺してやる』),野蛮な腕力,さらには罪悪感
(『もしおまえがだれかに話したら,パパは刑務所に行くことになるんだよ』)などがその例です。
逆に,やさしく説得したり,贈り物や小遣いで釣ったりする人もいます。
また,性行為をゲームや親の愛情という言葉でごまかす人もいます。

「これは,愛し合う時にだれもがすることなんだよ,とあの人は言いました」と,
ある被害者は述懐しています。幼い子供が,そのよう
な感情面のゆすりや詐欺にどうして抵抗できるでしょうか

 そうです,加害者は冷淡にも,子供が無力でだまされやすく,「悪に関してはみどりご」
であるという事実を利用するのです。

 次に,子供の時にはいかにだまされやすく無力であったかを思い起こす必要が
あるかもしれません。何人かの幼い子供と一緒に時間を過ごしたり,自分が子供
の時にかいた絵を見たりするとよいでしょう。支えになってくれる友人も,
虐待があなたの責任ではないことを絶えず指摘することによって助けになれます。

 しかしある女性は,「父の行為によって興奮を感じたことを思い出すと,むかむかしてきます」
と言っています。中には,いたずらされている時に興奮を感じたことを覚えている被害者
(ある調査では58%)もいます。そのために,恥ずかしい気持ちになるのはよく分かります
。しかし,「子供に対する性的虐待を乗り越える」という本が指摘しているとおり,
「身体的興奮は,特定の方法で触られたり刺激されたりしたことに対する体の自動的な
[反応]にすぎず」,子供は「この興奮をどうすることもできない」のです。ですから,
起きたことに関する全責任は加害者だけにあります。それはあなたのせいではないのです。
           
                      親を受け入れる
      
  これは,立ち直るための最も難しい課題の一つかもしれません。依然として,
怒りや復しゅう心,あるいは罪悪感で心がいっぱいになっている人もいます。
虐待されたある女性は,「私が加害者を許すことが,私にはできないので憂うつになります」
と言いました。一方,加害者を異常に恐れながら生活している人もいるかもしれません。
あるいは,母親が虐待を見て見ぬふりをした場合や,虐待が露見した時にそれを否定したり
怒ったりした場合には,母親を強く憎むこともあります。
「母は私に,[父]を許すべきだと言ったんです」と,ある女性は苦々しげに語りました。

 虐待されて怒りを感じるのはごく当然のことです。しかし,それでも家族を結びつける
きずなは強いかもしれません。
 あなたとしても,親との関係を一切断つことは望まないかもしれません。
仲直りしたいとさえ思うかもしれません。

 しかしそれは,事情に大きく左右されるでしょう。親を完全に許したいと思う被害者もいます。
それは,虐待を大目に見るということではなく,怒りに燃えたり恐れにとらわれたりするのを断固
として退けたいという気持ちからです。
 
 感情的な対立を避けるほうを取って,『言いたいことは心の中で言い』,問題をそっとしておく
ことで満足する人もいます。
しかし,問題を解決するには,虐待の事実を―直接会うか電話や手紙で―親に突き付けるしかないと
思うようになる人もいます
そうする場合には,吹き荒れるかもしれない感情的なあらしに耐えられるほど自分が十分に立ち直っ
ているかどうか,あるいは少なくとも十分の支えを得ているかどうかを確かめてください。怒鳴り
合ったところで成果は上がらないので,毅然とした態度と共に冷静な態度を示すようにします

   1)何が起きたかということから始め(2)自分がどんな影響を受けたか(3)親に何を期待するか

例えば,謝罪,治療費の支払い,行動を改めることなど)というふうに順を追って話して
ゆくとよいかもしれません。
少なくとも,問題を明るみに出したということは,つきまとう無力感を追い払うのに役立つ
ことでしょう。また今までとは違う親子関係を築くための道を開くことになるかもしれません。

 例えば,父親は虐待の事実を認め,非常に後悔していることを表わすかもしれません。また,
行動を改めるために,例えばアルコール中毒の治療を受けるとか,誠実な努力をしてきたかも
しれません。同じように母親も,あなたを守れなかったことで許しを請うかもしれません。
時には完全に仲直りできることもあります。しかし,依然とし
て親に対する複雑な気持ちがあって,すぐには親と親しくなりたくないと思うとしても,
驚くことはありません。
とはいえ少なくとも,家族としての適度な付き合いは再開できるかもしれません。

 一方,そのように話を持ち出した結果,加害者やほかの家族から頭ごなしに否定されたり
,口汚い言葉を浴びせられたりすることもあるでしょう。
もっとひどい場合は,加害者が依然としてあなたの敵であることが分かる場合もあります。
そのような場合に許すのは適切ではないかもしれませんし,まして,親しくなることは不可能でしょう

 いずれにせよ,傷つけられたという気持ちがおさまるまでには相当時間がかかるかもしれません。

耳を傾け支えになってくれる人に打ち明けることや,自分の気持ちを何かに書き留めることもやはり,
自分の怒りについて理解する助けになるかもしれません。あなたは神の助けによって自分の怒りを
処理することができます。時間の経過と共に,有害な感情があなたの考え方を左右するようなことは
なくなるでしょう。